1.意義と目的
タンパク質は、生物の体の中で生命を維持するために働く重要な分子である。
タンパク質は、何万種類もあるが、複雑で巨大な分子になっている。その為に、
すべてのタンパク質の構造が解明されるところまでには至っていない。
タンパク質は、その種類によって立体構造が厳密に決まっており、その働きを
理解するためにはより多くのタンパク質の立体構造を調べる必要がある。立体
構造が明らかになれば、生物学の研究だけでなく医療や食糧生産などの様々
な方面に役立つと考えられる。例えば、医療分野では立体構造が解れば、病気
を引き起こすウィルスの増殖に必要な酵素の必要な部分に入り込む化合物を
合成して抗ウィルス剤として実用化することができる。
このように、タンパク質の構造を明らかにすることは、人類に大きな貢献をする
と考えられる。今回の実験も、卵白に含まれているタンパク質リゾチームの構造
を明らかにするため、宇宙で乱れの少ないより大きな結晶を作るための予備実
験として行うものである。
2.原理と方法
一般に結晶を作るには、再結晶という方法を用いる。再結晶とは、結晶性物質
を溶媒に溶解し、適当な方法で再び結晶として析出させる操作を言う。そのため
には、温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却する方法が主
流だが、タンパク質に熱を加えるとペプチド鎖を切断することなく高次構造を破壊
(タンパク質の変性)するので、今回は溶媒を蒸発させて濃縮する方法を採用して
いる。具体的には、蒸気拡散法と呼ばれる方法を用いて実験した。
蒸気拡散法とは、下記の図のように中央のタンパク質溶液より周囲の沈殿剤溶
液の塩濃度を濃くしておくと、沈殿剤溶液の蒸気圧が相対的に低くなるため、タン
パク質溶液から沈殿剤溶液の方に塩濃度が等しくなるまで水分が移行する。これ
によりタンパク質溶液の濃度が濃くなり溶解度以上に達すると結晶が析出する。
蒸気拡散法の実験に使用したクリスケムチャンバー